二人の指導者
4月9日の朝のニュースで、「今日にも北朝鮮ミサイル発射か」と報道していた。画像にはソウル市内が映し出され、市民の反応をキャスターが現地駐在員に尋ねていた。
昨日までソウル市や地方の農村で米韓・EU韓FTA締結後の経済への影響を調査し、昨夜遅くに帰宅したばかりの私にとって訪問先でのびのびと今を一生懸命に汗する愛すべき人たちの顔が浮かんできて、えっ、ほんとに韓国でそんな戦時非常状況なのかと耳を疑った。
FTAを米国、EUと締結し、コメを例外としている他はすべての農産物を期間を決めて解放した韓国。
一番影響される畜産業、2010年韓国農林食品部の最も素晴らしい農家部門で金賞に輝いた明星農場のキム肝っ玉母さんから外国から入る安い牛肉に対し、300頭の肉牛でどう工夫し利益を上げるかの経営哲学と大豆、トウモロコシ、食物残差、塩、乳酸菌などを調合した底抜けに頑固なオリジナル飼料へのこだわりを熱っぽく話す興奮がミサイル関連ニュース画像とは別に勝手によみがえってきた。
日本も出生率が1.3と低いが、韓国は1.2ともっと低く、これが韓国経済の最大の課題です。と明快に分析する経済産業省からジェトロに出向してソウル副所長を4年務める小諸市出身の中山さんから、4月8日朝から2時間の意見交流を持った時、「朝鮮半島の南北和平の最後の砦であるケソン工業団地が大変だ」と聞いた。この団地は、経済の活性化が遅れている北朝鮮国内に韓国が大勢の技術者を派遣し、和平のための両国一大プロジェクトであった。その北朝鮮の将来を支える5万4000名の労働者が引き上げ工場はストップ。韓国技術者も54台の車に分乗し、韓国に帰える準備をしていると聞いた。
1950年6月25日ソビエト連邦のサポートを受け、北朝鮮軍が突然ソウル市に進軍それから3年の長きにわたり動乱が続いた。朝鮮動乱である。同じ民族や家族がばらばらに生活することの悲しさは自律する国家として最も悲しいことである。
しかしこの報道が流れる前、両首都であるソウル市とピョンヤン間で電車が敷設されたり、ケソン工業団地が整備されたりし、南北和平への明かりが見えてきたと隣国に住むものとしてうれしく見守っていた。
国際化と情報化が著しく進展し、世界が大きく変わろうとしているこの時期、両国のリーダーが変わった。
人口2000万人の北朝鮮は、建国の父金日成氏の孫である二十代の金氏が第一書記に就任した。計画経済を推し進め、軍事強化を国の基本としている。一方人口5000万人韓国は、朝鮮動乱後の創成期長く大統領として活躍した朴大統領の御嬢さんの朴さんが51.6%の僅差で女性初の大統領に就任した。一時期IMFから多額を借り入れ、財閥解体など社会改革を断行し、ここ10年で世界経済に彗星のごとく登場し、仁川国際空港はアジアのハブ空港として成長し、自動車、電子機器など世界のビック企業を輩出した。一人あたりのGDPも22.424ドルを超えた。
私には、国民生活を支える貿易収支の9割以上を海外に依存し、関税障壁の完全撤廃をどの国より先んじて実施し、パイオニアメリットをしたたかに国益とする。なおかつ農耕民族の心、韓国の国づくりのもとであるコメだけは例外措置を貫き、世界経済の中での存在感を高めようとする韓国の世界戦略こそ、10万m2k小さい国土のぎりぎりの選択だと思う。
北朝鮮が食糧不足だということで、農家の皆さんと一緒に保有するコメを援助米として米を送ったことがあるが、今でも食糧事情が改善されたとは聞かない。一方韓国では、がんなど4大疾患を100%健康保険で対応しようとするほど医療費の本人負担は安い。
最も異なった方向で歩もうとしている同じ民族である両国、世界が注目する。
期せずして新しいリーダーは、動乱後の両国の政治に深くかかわってきた血筋でもある。
「子を思い 安堵の暮らし いつの世も」 星辰
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