宮澤敏文

塩屋岬の雨

2011年3月11日の震災以来5回目の福島県薄磯海岸は、海は荒く、地震で近くなった浜はけぶり、中学校だけ残った陸地を見渡せば、昔の家並みの跡に茂る草花が梅雨の雨に色鮮やかにたたづんで。

40年前、英語の師とともに学び、学び疲れてみんなで夜の大海に大声で叫んだ将来の夢。目を閉じて静かに思やる。 渦を巻いてやってきた未曾有の大波の渦に、師の親戚だったお世話になった民宿の家族も今も行方不明とのこと。

この故郷に来て、珍しく子供のようだった師の温顔が浮かぶ。 当時のありさまを説明され、生存され避難された皆さんが、復旧住宅など整備されても、いまだ薄磯海岸に戻ってこない人が多いと聞いた。

若くして他界された孤独な歌姫美空ひばりさんの「……..一人にしないでおくれ」と綴った「みだれ髪」の人恋しい旋律を口づさむと 続いて師が好きだった砂山の節が自然と出てきた。

家族愛を歌った童謡「喜びも悲しみも…」のモデルにもなった塩屋岬の灯台。 荒れる6月の満ち引きを受けながら、何を思うか変わらず、じっと大海を見つめている。

「ぎりぎりの 熱き日の情熱 海に響き 塩屋の岬に 6月の雨」星辰

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