宮澤敏文

阿蘇の赤べこ

大草原に単角牛の赤べこが数頭、凛として秋を運ぶ高原の風と共に悠然と私たちを見つめている。

平成25年5月世界農業遺産に認定された熊本県阿蘇地域では、阿蘇山の噴火でできた世界有数な大カルデラの周辺に群生する日本一の規模を誇る草原を生かし、40年前から5万haが160の牧野組合と関係集落になって7000頭の放牧牛を中心に農・畜産業が展開されてきた。

その管理は大変で、毎年元気で栄養豊かな草原を創るために、野焼きをするが野焼きの火が周りの家や森林に燃え広がらないように、540kmの輪地ぎりを実施するという。大事業である。

近年、全国と同じここでも農村の高齢化や少子化の影響で2万2000haまで減少、もう10年後には56%の集落で野焼きは不可能とSOSが発っせられた。

このままでは阿蘇の草原は荒廃地となってしまう。環境庁、熊本県、ボランティア団体が中心になって阿蘇草原再生協議会が設置されたという。募金も実行し3年間で7000万円を集めたと聞いた。ドイツやスイスなどでは、山地や草原を守るために、その作業を実行する人達に、維持するため直接支払い方式で生活費を交付しているが、市内を歩くと「なぜ」と思うほど焼肉屋さんがやけに多い。「赤べこ100gを食べると約8m2の草原が再生される」がキャッチフレーズ、県民挙げて水源でもある阿蘇草原を守ろうとしている。熊本県も見事である。

前日鹿児島県に伺ったが、薩摩に行くと伺わねばならないのが特別少年突撃隊の南九州市の知覧である。「必沈」と17歳から22歳の少年が往きの燃料だけ積み、爆弾を装着し敵艦隊へ突入していく。平和会館に集められて遺書を拝読すると一字一句神経の行き届いた文字であり深く揺り動かされ、二度と戦争を起こしてはと思う。

その航空基地からすぐのところに、島津藩の知覧武家屋敷群が7軒きちんと残されている。毎日早朝家主の箒で清められ、庭もきちんと手入れされ、訪問者の心を離さない。どこにその財源はとお聞きすると武家屋敷の7軒の庭園は拝観するのに500円を頂いているとのことであった。

その収入を7軒で等分し、維持費やそれぞれの家の生活に充てているとのことである。「市はどのように関わっておられるのですか」とお聞きすると「7軒の一軒が後継者がおられず数年前にその家を市が買い取ったそれだけです。結果今は市も地主となりまして、入場料の収益の1/7を受け取っています」「差支えなければおいくらでしょうか、市の受け取り分は」「ここ顧客減少気味ですが、年間900万から1000万円です」とのことである。

本気で畜産業を阿蘇草原で継続しようとしたら、募金の使い道を行政が決めるのではなく、当事者の牧野組合が自分達の牧畜業がづづけられるために用途を決めたらもっと活性化するのではないだろうか。行政はあくまでもできる限りのサポートに徹したら後継者も残るのではないだろうかとお腹に番号が書かれた赤べこを見つめながら思った。

「雄大に 広がる草原 牛ひとつふたつ」星辰

 

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