宮澤敏文

ありがとう

信州安曇野地域で、農家に大切に作り続けられる伝統野菜に、青こしょうがある。長野県は七味唐辛子が有名であるが、この青こしょうの味に感動し、新たな技術で加工し「青こしょう」という新商品を生み出した奈良県出身の東氏が、笑顔で迎えてくれる白馬村のホテルによく出かける。

客室正面に五竜岳の武田菱を望み、白馬の山と水田ののどかさが満喫できる。清流脇に立つこのホテルのこだわり朝食には舌を巻く。 ほぼ野菜100%で構成され、米、漬物、桑茶の類まで地元の旬にこだわるからリピーターが後を絶たない。

今朝は雪の中からつんだ和セリが出されてあった。常に工夫され、成長する宿である。

少し緩んできたが真っ白の冠雪の峰々を見上げながら旬な朝食を楽しんでいるとベトナム国出身の社員が案内して、隣のテーブルに80歳は越えているだろうかご夫妻が野菜いっぱいの料理を乗せて座られた。

「お箸忘れたの。おしぼりもあったらいいのに」と奥さんがさっと立たれて持ってこられた。「ありがとう」とご主人。この夫妻はこのように歳を重ねてこられたのだろう。

「ありがとう」。先日100歳を迎えた恩師が家族が何かしていただくと必ず「ありがとう」と話される。この師は100歳の俳句のなかで、「生きるとは可能性の追求なり濃りんどう」と読まれた。

さわやかな朝をいただいた。言葉少なく食事をされる夫婦のお姿をそれとなくうれしく拝見した。

 「ありがとう 言われた心に 春の雪」   星辰

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