宮澤敏文

鴨川の櫂

「75歳のお祝いを生徒たちがしてくれました」と魅力的な笑顔を輝かせお話になられる横浜日赤の総看護婦長をされた熊沢さんのご案内で、千葉県鴨川市にある亀田総合病院と医療大学・医療技術専門学校を訪問した。

人口減少で縮小する漁業と農業の地域を「医療介護を基軸に再生しよう」と行政と医療機関が連携し、雇用の創設と確保、雇用者への子育て支援、首都圏からの移住推進、資格取得を含めた専門教育の充実など総合的な政策実行で、国を始め全国から注目される鴨川市と亀田医療の連携は、目を見張るほどであった。

この動きの中心的人物として世界を飛び回られ活躍される亀田省吾先生と太平洋のご馳走を前に、鴨川の地酒でゆっくりした時間をいただいた。 たまたま看護婦の国家資格試験の結果がでる日で、中国から留学している5名全員が合格され、他の生徒さんもそれぞれ立派な成果を出されたとのことで、亀田先生、熊沢先生との話は弾んだ。

「日本の人口はずっと以前から減少している。長寿になったことでデーターには乗ってこなかっただけでした。この現状は限りなく深刻ですよ。もっと子育てに支援しないと。中国や外国では健康長寿に対する関心はヒートアップしている。何より人材づくりが重要で、この分野での成功のキーとなりますよ。私どもは最大の力を注いでいます」とさわやかである。

アジアを始め、多くの要人が毎日のように来訪する亀田医療は、世界が注目している。淡々と語られる亀田先生の驚くようなすごさの原点は何かと思いを巡らせると、生誕地であるふるさと千葉県南部地域への愛情の強さと深さ、そして今もなお元気で亀田医療の精神を見つめ続けられるご母堂様へ敬虔なお気持ち、亡きご尊父さんやともに活躍するご兄弟への愛情にある気がして熱くなった。

亀田先生方の提案は、2008年から始まったふるさと納税制度を使って、首都圏の人がふるさと納税のお返しとして病院のドックをプレゼントする。 ドックの来訪者は、当然地域で買い物もするし新たに宿泊もするから地域振興になる。 しかしそれだけでは終わらない、その納税で上がった資金を鴨川市の医療介護等で働く人たちの0歳から高校卒業までの子供を預かり、保育・教育する費用に充てるといったものだ。一例であるが実によく検討されている。

「この地域をどう創っていくのか。有史以来、食べるものづくりのために歴史は発展してきた。しかしある程度の満ち足りた生活がおくれる21世紀の日本では、働く場を創るために行政が何をするか。いかに民間のすぐれものを磨き輝かせることに取り組めるか」に焦点は移った気がしてならない。そうしないと人口はますます減っていく。

そのためには、まずその地域の可能性を4次元で見つめ、「人が生きるということは働くことにあり」そんな視点で、守らなければならないものを守り、変えなければならないことを変えて、新しきを創造していかなければならない気がする。

亀田総合病院の11階から眺める太平洋は限りなく大きい。

道路を挟んだ前庭の砂浜は、押しては引く波のために昔より何十メートルも削られたと聞いた。そのままにしておいたら砂浜はきっともっと狭くなるであろう。

鴨川に綺羅星を見た。

「目を閉じて 滾々浮かぶ 笑顔の先に 真昼の星 海の上に光る」 星辰

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