宮澤敏文

ふるさとはあったかい笑顔

働き者の日本人は、休みの取り方が下手だといい続けられてきたが、このごろうまく余暇時間をお使いの方々に出会うことが多い。うれしい限りである。

6月に入って山の緑が輝き、うどや筍、ふきなど春の遅い北アルプス山麓は一斉に山開きが始まり、活気づく時である。人が勤勉で温かい小谷村の西山北野地域の山開きに伺った。今日は北小谷塩の道古道地蔵峠の道開きもあり、地元の皆さんのもてなしの心が輝く日である。

この北野地域には県有林があり、その管理を地元集落にお任せしたらどうだろうかとの提案、またずっと温めてきた都会の人たちが山村に来て体験を通じ汗することで元気になろうと「きのこの菌打ち作業体験や小谷の特産である根曲がり竹の収穫作業体験」をセットした企画のスタートでもあり、地方事務所の林務課長も休日出勤で駆けつけた。

各宿に泊まられた方々が9:30に集合された。ご夫婦の方、親子の方それぞれである。甲田文さんの碑文前や山女池を通って、鍵のかけられたくねくね林道のさわやかな風を楽しみながらブナの原生林に到着した。そこではもう北野集落の皆さん総出で、山女の塩焼きや根曲がり汁が準備されていた。参加された神奈川や東京からお越しの皆さん方は、インストラクターに案内されてブナの原生林に入り、笹の藪に「根が曲がり竹」の収穫に汗を流す。皆さん熱中されておられる。時間が過ぎて、笑顔でずっしり重たい袋を抱え戻ってこられる。汚れをしらない湧き水で顔を拭き、早速串焼きの山女をほうばる。「おいしい」喚起の輪が広がり、手製の漬物や豆いっぱいの赤飯がこれまた美味である。お楽しみの鯖カンで味付けした「根曲がり竹汁」が運ばれてくる。器いっぱいでうどもふきも入っていて何杯もお変わりする人もおられ、みんなが優しい顔になる。料理の仕方も話され、一層笑顔の輪が大きくなり会話も弾む。地元の豚の焼肉も出され、おなかが膨れあがる。ちなみに焼肉係の平均年齢は二人で160歳近い。女性陣は根曲がり竹を束ねてお土産作りに入っている。集落総出でみんな手際いい。

ホテルと民宿の違いは、お土産を持って泊まりにくるのが民宿と思っている。そこには人と人の気持ちのやり取りがあり、ドラマがあると思う。ふるさと体験型研修は民宿が主役である。

私の敬慕する山下大五郎画伯夫妻は安曇野をこよなく愛し有明山を好んで描かれた。ご夫妻で、東京のおいしいお菓子を買ってこられては我が家に泊まられていた。近くに温泉宿もいくらでもあるのに、何で我が家なんですかとお伺いしたことがある。そのときのお話は、亡き母の笑顔と早朝暗いうちにご夫婦でスケッチに行かれるため、はぜ掛け米のおにぎりと母独特の卵焼きが楽しみで来るんだと聞いた。

昼食後開始された「なめこの菌打ちの作業」は皆さん慣れないため、けがでもと心配していたが、スムーズに楽しくそれぞれが心を開かれて向かい合っておいでだ。「この事業は成功する」そんな実感を持ちながら、十分重い袋の根曲がり竹を昨日以来東京からお越しの大切な友人の帰り時間に間に合えばと車を走らせた。

「包み込む ぶなの緑に 目を閉じて もてなす心に やさしさ沁みこむ」 星辰

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