ハイドリックパワープロジェクト

「せっかくこんな立派な砂防ダムができるんだから、水の落差を使って発電ができないかな」
長畑砂防ダムの完成間近の4年程前、八坂村の大日方村長が、私と犀川砂防事務所長に訴えられた。
地球温暖化防止や地域振興にもなり、早速、各制度や可能性を各方面をまわり、調査した。梓川水系の奈川渡ダムなど手がけた会社を訪問すると、わずか2メートルの間を通水することにより発電できる新開発機械があり、精力的に現場を訪問してくださり研究した。
しかし、結果は思わぬ方向にむかった。
この提案には、水利権という、問題点があったのだ。
砂防ダムの川は、地域住民に水利権があり、砂防ダムを造った側には、水利権がなかったのだ。そこで、長畑砂防ダムで、発電するという案は、断念しなければならなかった。

河川には、水利権があり、農業関係や工業発電の利用など、その権利はたいへん重要とされている。

一般の住民から考えると、山に降った雨が沢をくだり、川となって下るわけで、その流水に権利があるのはおかしいと思うだろう。

しかし、農業用水として、川を整備し、昔より何日も無償で、堰や河川を維持してきた人たちにとって、生活の源である水が、慣行水利権として守られているのも、その苦労を知れば知るほど当然な主張であると納得できる。

現に白馬村の立ての間地域の皆さんは、7戸の集落で、毎日往復8kmもある危険な水路を交代でパトロールしている。小谷村の黒川渡の住民は、水の取り入れ口までのパトロールの途中で、何度も熊と遭遇しているそうである。そこまでして、地域住民の手によって、川は維持されている。

長畑砂防ダムの通水を利用しての水力発電に最も賛同し、私に協力してくれたのが、国土交通省からこられた、坂口県砂防課長(当時)であった。
「宮澤県議、それはおもしろい、大いに研究しましょう。」と二人で地図を広げて、可能性を手探りしたことを思い出す。
しかし、住民の持つ慣行水利権を守らなければならず、長畑砂防ダムでは、発電を断念した。

こんな話しを、昨年、本庁から来られた北安曇地方事務所の岩崎土地改良課長に話した。
『新しい創造が始まった』

岩崎課長を中心とした北安曇地方事務所の土地改良課のスタッフが、「農業水利権をもつのは土地改良区だ。これは、おもしろい。我々が(砂防ダムに発電をとりいれることを)やるべきだ」と、言い、動き出したのだ。
そして、「ハイドリックパワー」プロジェクト(農業用水路の自然落差を利用し、発生したエネルギーによる地域農業振興)を創設した。

地方事務所長も賛同し、所内関係をあげて、対応しようと着々と準備は、始まっている。
平成15年度はa)利用可能な水力の得られる施設の実態調査と把握、b)農業分野への新たな利用の可能性の調査、C)法や助成制度の調査をあげている。

2001年、私は、県環境審議会長として、今後10年の数値目標までかかげた地球温暖化防止政策を、田中知事に提言してきた。
身近な工夫を取り入れた、この新しい動きは、確実に進行していくと確信してやまない。

2003年8月13日
長野県議会議員 宮澤敏文

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