宮沢敏文の里山ばなし(5)
2003年2月 神の手
 心に志を立て「0(ゼロ)」に等しかった英語力をなんとかしようと上京し、一年間、中村屋さんで、朝3:30からのアルバイトで貯えたわずかばかりの費用で、一年間の英語三昧の旅にでた。わかって勉強しているのならいいが、何もわからず大海へ船をこぎだすようなものだった。行く先がどこか、今どこにいるか、どこに向かっているのかもわかない状態で船をこぎだしていた。
 そんな時、一人の英語教師(志賀先生)との出会いがあったのだが、この人についていけば、そして努力すれば、必ず、夢がはたせると信じて、くる日もくる日もわけのわからない英文に取り組んでいた。

 そんなある授業の始まる前、2日続きの徹夜で机でまどろんでいると、背中にそっと手をおく人がいた。不思議な気持ちで、背をのばすと、わきを志賀先生が通り過ぎていかれた。なにもない一つの光景なのに、当時の私にとって、なんと元気が出たことか、教壇に立たれ、笑顔で、授業は始まった。

 熱いうちにたたかれる鉄は、自分が熱い鉄であることを知らないままに、造形されていくのだろう。

 そっと、おかれたあの手は今でも私の背中に残って住みついている。



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